「万が一に備えて死後事務委任契約を結びたいけれど、もし途中で気が変わったらやめられるのだろうか」「数年前に契約したけれど、お葬式の希望や預貯金の状況が変わったので内容を見直したい」。そんな不安を持つ方は少なくありません。
死後事務委任契約は、ご自身が亡くなった後に実行される長期的な契約だからこそ、その時々の心境の変化に合わせて柔軟に対応できるかが重要です。この記事では、解約・変更に関するルールと、預けたお金(預託金)の返還ルールを行政書士が解説します。
結論:本人の生前であれば「いつでも解約」できます
まず最も大切な結論からお伝えします。死後事務委任契約は、ご本人が元気で生きている間(生前)であれば、いつでも、どのような理由であっても自由に解約(解除)することができます。
これは民法651条1項で「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」と定められているためです。「一度契約したら一生縛られるのではないか」と心配する必要はありません。
なお、あまりに一方的なタイミングでの解除により相手方に損害を与えた場合には、賠償が必要になるケースもあります(民法651条2項)が、これは解除の自由そのものを制限するものではなく、円滑な手続きのために早めにご相談いただくのが安心です。
死後事務委任契約の「解約・解除」に関する3つの重要ルール
生前の解約はいつでも自由ですが、死後事務委任契約の性質上、契約書の中にはトラブルを防ぐための独自の解約ルール(特約)が設けられているのが一般的です。特に重要な3つのルールを確認しておきましょう。
- ルール① 契約書に定められた「解約条項」に従って手続きする多くの契約書では、円滑な清算手続きのために「解除を希望する際は、1か月前までに書面で通知する」といった予告期間が定められています。実印での押印や、公証人の認証を受けた書面で行うこともあります。
- ルール② 受任者(専門家)側からの解約は厳しく制限されているサポートを行う事業者の都合で一方的に契約を打ち切られては、お客様が困ってしまいます。そのため実務上は「受任者からの解約は、心身の故障や義務違反などやむを得ない事由がある場合」に厳しく限定した契約とするのが一般的です。
- ルール③ 本人の「死後」は、相続人から解約できない本人が亡くなった後に、疎遠な親族などが「赤の他人に葬儀をされたくない」などと言って勝手に契約を解除できてしまうと、生前に望んだ最期の希望が叶わなくなってしまいます。
この点については、実際の裁判例(東京高裁平成21年12月21日判決)でも、死後の事務処理を依頼する委任契約について、契約内容が不明確・実現困難であったり、承継者にとって履行負担が過重であるなどの特段の事情がない限り、委任者の地位を承継した相続人が契約を解除することは許されないと判断されています。
ただし、どのような場合にこの制限が及ばないかが判決だけでは必ずしも明確ではないため、契約書に「本人の死亡後は、相続人はこの契約を解除することができない」という条項を明記しておくのが、実務上もっとも確実な方法です。
途中で解約した場合、事前に預けた「預託金」はどうなる?
死後事務委任契約では、将来のお葬式代や遺品整理の費用として、生前にまとまったお金を「預託金」として事業者に預けるケースが多くあります。「もし途中で解約したら、預けたお金は返ってくるのだろうか」という点は、多くの方が心配されるポイントです。
生前に契約を解除した場合、事前に預けていた預託金は、それまでにかかった実費や事務手数料等を差し引いた上で、原則として返還されるのが一般的な取り扱いです。
- 契約書に「解約時の返金規定」が明記されていること
- 預託金が事業者の運営資金とは別口座で厳格に管理(分別管理)されていること信託口座や提携士業の専用口座などを利用した分別管理がされていれば、万が一その事業者が倒産した場合でも、預託金が守られやすくなります。
契約を結ぶ前には、必ずこの2点を満たしている事業者であるかを確認することをおすすめします。
契約の内容を「見直し・変更」したいときの手続き
「お墓の埋葬先を別の場所に変更したい」「葬儀の規模をもっと縮小したい」など、契約自体をやめるわけではなく内容の一部だけを見直したい場合も、生前であればいつでも自由に変更が可能です。
死後事務委任契約は、証拠力を高めるために公証役場で「公正証書」にして作成することがほとんどです。公正証書の内容を後から変更する場合、自分で契約書に手書きで加筆することはできず、再度公証役場での手続きが必要です。具体的には、次のいずれかの方法をとります。
- 「変更合意の公正証書」を新たに作成する
- 前の契約を一度「全部解約」し、すべての内容を新しく盛り込んだ公正証書を作り直す
実務上は、内容を一部だけ変更するよりも、「古い契約をすべて白紙に戻し、最新の希望をすべて反映させた新しい契約書を丸ごと作り直す」方法が推奨されます。亡くなった後の現場で「古い契約書」と「一部変更の契約書」の2冊が存在していると、受任者や関係機関がどちらの指示に従うべきか迷い、手続きに遅れが生じるリスクがあるためです。常に「最新の内容が1冊にまとまっている状態」にしておくことが、最期の瞬間をスムーズに実行するための秘訣です。
よくあるご質問
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- 死後事務委任契約は、生前であればいつでも自由に解約できる
- 受任者側からの解約は、やむを得ない事由がある場合に限定されるのが一般的
- 本人死亡後は、裁判例上も相続人による解除は原則認められない
- 解約時の預託金は、実費等を差し引いた上で原則返還される
- 内容の見直しは、一部変更より「全部作り直し」が実務上安全

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