「自分に万が一のことがあったら、遺される愛犬や愛猫はどうなってしまうのだろう」。一人暮らしでペットを飼っている方にとって、ご自身の万が一の後のペットの行く末は、最も心配なことの一つではないでしょうか。
結論からお伝えすると、死後事務委任契約によってペットを引き渡す手続きを行うことは可能ですが、それだけではペットが生涯にわたって幸せに暮らすための「飼育費用」や「お世話の義務」を法的に強制することはできません。この記事では、ペットを遺して逝く不安を解消するための具体的な仕組みを行政書士が解説します。
死後事務委任契約だけで「ペットの終生飼育」までカバーできる?
死後事務委任契約の対象となる事務には、行政手続きや葬儀の手配、お部屋の片付け(遺品整理)などがあります。このお部屋の片付けや遺品整理の一環として、「残されたペットの引き取り手(譲渡先)探し」を死後事務として委任することは可能です。
しかし、死後事務委任契約はあくまで「本人が亡くなった後の具体的な事務作業を代行してもらう契約」です。そのため、引き渡した後の新しい飼い主に対して、「生涯にわたって適切に飼育してもらう義務」やそのための「飼育費用」を法的に紐付けて強制することまではできません。ペットが安心して暮らせる環境とお金を遺すためには、死後事務委任契約とは別に、法的な効果を持つ「遺言書」や「家族信託」の備えが必要になります。
ペットの未来を守る強力な仕組み「負担付遺贈」とは?
遺言書を使って、信頼できる相手にペットの飼育を託すための代表的な仕組みが「負担付遺贈」です。「特定の財産(お金など)を譲り渡す代わりに、ペットの世話をするという義務を負担させる」内容の遺言を指します(相続人に託す場合は「負担付相続」)。
例えば、「友人のAさんに300万円を遺贈する。その代わり、Aさんは私の愛猫タマを生涯にわたって適切にお世話し、タマが亡くなったときは手厚く埋葬・供養すること」といった内容を遺言書に記載しておきます。
民法では、受遺者(財産を受け取る人)は、引き継いだ財産の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負うと定められています(民法1002条1項)。そのため、遺言をする飼い主は、ペットの予想される寿命、毎月の食事代、医療費、お世話をしてくれる相手への謝礼などを総合的に算定し、託す財産の額が不足しないように設計しておく必要があります。
「負担付遺贈」を計画する際の3つの注意点
負担付遺贈は優れた仕組みですが、実際の終活の現場ではいくつかの注意点があります。
- 相手は「遺贈を放棄する」ことができる受遺者は遺言者の死亡後、いつでも遺贈を放棄することができます(民法986条1項)。もし指定していた相手から放棄されてしまった場合、その負担付遺贈は想定通りに機能しなくなるおそれがあります。そのため、必ず元気なうちに相手と十分に話し合い、事前に快い内諾を得ておくことが重要です。また、万が一に備えて「第1候補の人が放棄した場合は、第2候補のBさんに託す」という予備的な受遺者の指定を盛り込んでおくことも強く推奨されます。
- 言葉遣いに配慮するペットは法律上「物(動産)」として扱われますが、飼い主にとっては大切な家族の一員です。遺言書の中で「ペットの管理をさせる」と冷たく書くよりも、「生涯にわたり、介護・扶養し、死亡した場合は手厚く埋葬、供養すること」といった、愛情と尊厳を持った表現を用いるのが実務上おすすめです。
- お世話を監視する「遺言執行者」を指定しておく財産だけを受け取り、ペットのお世話を怠るようなことがあっては困ります。信頼できる行政書士などの専門家を「遺言執行者」に指定しておけば、新しい飼い主が適切にペットを飼育しているかを監督し、義務が怠られている場合には、相続人とともに履行を催告したり、家庭裁判所に遺言の取消しを申し立てたりすることができます(民法1027条)。プロの目が入ることで、ペットの安全がしっかりと守られます。
もう一つの選択肢「家族信託(ペット信託)」
負担付遺贈の他に、ペットの飼育環境を生涯にわたって守る方法として、「ペットの飼育を目的とした家族信託(いわゆるペット信託)」を活用する方法もあります。
- 委託者あなた(飼い主)
- 受託者信頼できる親族など、お金を管理する人
- 受益者(飼育者)ペットを実際に飼育してくれる人や団体
- 信託財産ペットの飼育用の金銭
この仕組みでは、お金を管理する受託者が、実際にペットをお世話する受益者(飼育者)に対して、信託財産から定期的に「飼育費用」を支払います。ペットは法律上「物(動産)」であり信託の受益者にはなれないため、実際の飼育者に受益者としての地位を与える設計にするのが一般的です。ペットが亡くなるまでこの支払いが継続され、受託者が第三者的な目線でチェックできるため、透明性が高く安全な仕組みとされています。
よくあるご質問
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- 死後事務委任契約だけでは、ペットの生涯の飼育費用や世話の義務は法的に確保できない
- 「負担付遺贈」なら、財産と引き換えにペットの世話を法的な義務として託せる
- 受遺者に放棄されるリスクに備え、予備的な受遺者の指定が重要
- 「ペット信託」は、受託者が飼育者へ継続的に飼育費用を支払う透明性の高い仕組み
- 遺言執行者を指定しておくことで、新しい飼い主の飼育状況を監督できる

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