「万が一、自宅で自分が倒れて誰にも気づかれなかったらどうしよう」「一人暮らしなので、自分が亡くなった後の部屋の片付けや葬儀がどうなるのか不安」。一人暮らしの高齢者世帯が急増する中、こうした「孤独死(孤立死)」への不安を抱える方は少なくありません。
この記事では、死後事務委任契約で備えられる具体的な範囲から、孤独死の最大のリスクである「発見の遅れ」を防ぐための生前の工夫まで、行政書士が解説します。
死後事務委任契約とは?
死後事務委任契約とは、ご自身が亡くなった後に発生するさまざまな事務手続き(死後事務)を、生前のうちに信頼できる第三者(専門家など)へ託しておく契約です。
民法上、通常の委任契約は「本人の死亡」によって終了してしまいますが、この契約では「本人が死亡しても契約を終了させない」という特約を設けることで、亡くなった後の手続きを確実に実行してもらうことができます。
よくある誤解として、「認知症に備えて任意後見人をつけておけば、死後の手続きもやってくれるはず」というものがあります。しかし、任意後見人の権限は、本人が亡くなった瞬間にすべて消滅します。どれだけ親身になってくれた後見人であっても、本人の死後に勝手にお葬式を出したり、アパートの遺品整理をしたりすることは原則としてできません。生前は「任意後見契約」、死後は「死後事務委任契約」と、バトンを繋ぐように両方を準備しておくことが不可欠です。
死後事務委任契約で「どこまで備えられる?」
死後事務委任契約で委任できる範囲は非常に広く、主に以下のような手続きをカバーできます。
- 死亡の確認と関係者への連絡
- ご遺体の引き取り、葬儀・火葬・納骨・永代供養の手配直葬や海洋散骨など、ご自身の希望に沿った形で手配できます。
- 入院医療費や介護施設の利用料などの未払い債務の清算
- 電気・ガス・水道や固定電話、スマホ、インターネット等の解約・清算
- 自宅(賃貸アパートなど)の遺品整理・家財処分と、お部屋の明け渡し
- 健康保険証の返納や年金の受給停止手続きなどの行政手続き
これにより、家族がいなくても「誰にも迷惑をかけず、自分自身のお金で、自分の望む形で」人生を締めくくることができます。
孤独死の最大のリスク「発見の遅れ」を防ぐ3つの工夫
死後事務委任契約は「亡くなった後の手続き」をスムーズに行うための契約ですが、孤独死における最も深刻な問題は「誰にも気づかれずに発見が遅れ、自宅が傷んでしまったり、大家さんや近隣に迷惑をかけてしまったりすること」です。この「発見の遅れ」のリスクを防ぐため、死後事務委任契約と併せて次の3つの生前対策を組み合わせることをおすすめします。
- 工夫① 生前の「見守り契約」をセットで結ぶまだ体も頭も元気なうちから、専門家と定期的な連絡(週に1回の電話や、月に1回の自宅訪問など)を行う「見守り契約」をスタートさせます。「電話が繋がらない」「呼び出しに応じない」といった異変にいち早く気づき、早期に自宅へ駆けつける(または緊急搬送を手配する)体制を作ることができます。
- 工夫② 専門家を「緊急連絡先」に指定し、多機関と情報共有する契約を結んだ専門家を、かかりつけの病院、利用している介護サービス、アパートの大家さんなどの「緊急連絡先」として事前に登録しておきます。自治体(大津市役所や地域包括支援センターなど)にも情報共有しておくことで、万が一の際にすぐに受任者へ連絡が届く体制を作れます。
- 工夫③ 賃貸アパートの「残置物処理のモデル契約条項」を活用する2021年6月、国土交通省と法務省が共同で「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定しました。これは、入居者が亡くなった際に、あらかじめ指定した受任者が「お部屋の荷物の処分や賃貸契約の解除」をスムーズに行うことを大家さんと約束するための契約のひな形です。死後事務委任契約とあわせてこうした条項を整えておくことで、大家さんの不安を軽減し、おひとりさまでも賃貸物件の入居審査を前向きに検討してもらいやすくなる効果が期待できます。
安心して任せるために。知っておくべき実務のポイント
死後事務委任契約は、ご自身が亡くなった後に実行される「やり直しのきかない契約」だからこそ、次のポイントを必ずクリアしている専門家を選ぶ必要があります。
- 契約は「公正証書」で結ぶ口頭や簡易なメモでも契約自体は成立しますが、亡くなった後に親族から契約の有効性を疑われたり、葬儀社や病院から手続きを拒否されたりするトラブルを防ぐため、公証役場で「公正証書」として作成するのが実務上の鉄則です。
- 預託金の「分別管理」が徹底されているか葬儀費用や片付け費用として生前にお金を事業者に預ける(預託金)ケースが多いですが、事業者の固有のサイフとは完全に分けた「分別管理」がされているか確認してください。過去には、事業者が預託金を使い込んで破産した社会問題(日本ライフ協会事件など)も起きています。
よくあるご質問
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- 死後事務委任契約は、葬儀・納骨・遺品整理など、亡くなった後の幅広い手続きをカバーできる
- 任意後見契約だけでは死後の対応はできず、死後事務委任契約とのセットが必要
- 孤独死の「発見の遅れ」対策には、見守り契約や緊急連絡先の登録も有効
- 賃貸物件では「残置物処理のモデル契約条項」の活用が、大家さんの不安軽減につながる

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