「自分が亡くなった後のために、やりたいことを全部遺言書に書いておこう」「お葬式のやり方や、ペットの世話についても遺言書に書いておけば安心だよね」。そう思っていませんか。
実は、遺言書に書けば、何でも法律上の効力(強制力)が発生するわけではありません。この記事では、遺言書に書くことで「法的な効力があること」と「ないこと」の違い、希望を叶えるための正しい備え方を行政書士が解説します。
遺言書に書いて「法的な効力」があること(法定遺言事項)
民法などの法律で「遺言によって定めることができる」と決められている事柄を「法定遺言事項」と呼びます。これ以外の内容は、遺言書に記載しても法律上の強制力は生まれません。
- 相続分の指定「妻に4分の3、長男に8分の1、次男に8分の1を相続させる」など、法定相続分とは異なる割合を指定すること(民法902条)。
- 遺産分割方法の指定「自宅の土地・建物は長男に、預貯金は長女に相続させる」など、具体的な分け方を決めること(同908条1項)。
- 遺産分割の禁止相続開始から5年を超えない範囲で、遺産の分割を一時的に禁止すること(同908条2項)。
- 特別受益の持ち戻し免除生前に特定の子供に与えた資金を、遺産分割の計算時に差し引かなくてよいとすること(同903条3項)。
- 祭祀主宰者の指定お墓や仏壇を引き継ぎ、法要を執り行う人を指定すること(同897条1項ただし書)。
- 遺贈や寄付お世話になった知人や、応援したいNPO法人、自治体などに財産を譲る・寄付すること(同964条)。
- 生命保険金受取人の変更遺言によって、生命保険金の受取人を別の人に変更すること(保険法44条)。2010年4月1日以降に契約した保険は無条件で対象となりますが、それより前に契約した保険については、保険会社の約款で禁止されていないか確認が必要です。
- 遺言信託の設定財産の管理や処分を目的とする信託を遺言によって設定すること(信託法3条2号)。
- 子の認知婚姻関係にない相手との間に生まれた子を、自分の子として正式に認めること(民法781条2項)。
- 未成年後見人の指定自分が亡くなった後、未成年の子供の後見人を指定すること(同839条)。
- 遺言執行者の指定自分の死後に、遺言書の内容を実際に実行してくれる代表者を指定すること(同1006条)。
遺言書に書いても「法的な効力(強制力)」がないこと
一方で、おひとりさまが「最も遺したい希望」の中には、実は法的な効力(強制力)が一切ない事柄が多く含まれています。これらは「法定外遺言事項」と呼ばれ、書くこと自体は自由ですが、残された家族や関係者が「その通りに実行しなくても違法ではない」という扱いになってしまいます。
- お葬式や納骨・供養の希望「家族だけで質素な直葬にしてほしい」「〇〇寺の永代供養墓に入れてほしい」など。
- ペットの世話のお願い「愛犬のタマは次男にお願いしたい。最後まで大切に育ててほしい」など。
- 身の回りの片付け(遺品整理)「自宅アパートの家財道具はすべて処分して、大家さんに明け渡してほしい」など。
- 看病や延命治療の希望「もしもの時は延命治療をしないでほしい」など。
遺言書は「ご本人が亡くなった後に、その存在が確認され、開封される」ものです。お葬式や遺体の引き取り、延命治療の判断などは、本人が亡くなる直前や直後の「超緊急時」に対応しなければならず、遺言書がじっくり読まれる頃には、お葬式も火葬もすでに終わっていることがほとんどです。また、お葬式の手配や部屋の片付け、ペットの世話は「具体的な事務作業」であり、財産の名義変更を主に行う「遺言執行者」の本来の権限からは外れてしまうため、強制力を持たせることができません。
強制力はなくても、想いを伝える「付言事項」の力
では、法的な効力がないことは遺言書に書く意味がないのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。遺言書の最後に、ご自身の想いや家族へのメッセージを添える文章を「付言事項」と呼びます。
付言事項には法的な強制力はありませんが、次のような重要な「心理的効果」があります。
- 「なぜこの分け方にしたのか」の理由を説明し、揉め事を防ぐ遺言者の生の声を遺すことで、相続人たちが納得し、感情的な衝突を防ぐことができます。
- お世話になった人への感謝を伝える感謝の言葉を添えることで、残された人々の心が温まり、円満な相続の実行に繋がります。
法的効力のない「死後の手続き」を実現する方法
お葬式、合祀墓への納骨、アパートの退去、遺品整理、公共料金の解約といった「お財布の整理以外の、現場の後片付け」を、あなたの希望通りに実行させるためには、遺言書とは別に「死後事務委任契約」を結んでおく必要があります。
生前に専門家(行政書士など)とこの契約を結んでおくことで、遺言書では強制できなかった以下の手続きを、家族の代わりとして、法的な代理権を持って実行してもらうことができます。
- 病院・施設からの「遺体引き取り」緊急時でも迅速に葬儀社を手配します。
- 希望通りの「葬儀・納骨(永代供養など)」
- 賃貸アパートの解約・家財の「遺品整理」
- 未払い医療費や公共料金の「一括精算」
おひとりさまの終活では、「遺言書(財産の行き先決定)」と「死後事務委任契約(死後の片付け)」をセットで結び、かつ両方の受任者を同一の専門家に指定しておくことが実務上の鉄則です。別々の人に頼んでしまうと、亡くなった後に「誰がどこまで片付けをして、どのお金から支払うのか」で権限が重複し、現場が混乱するトラブルが起こりやすいためです。
よくあるご質問
あわせて読みたい
- 遺言書に法的な効力を持たせられる内容は「法定遺言事項」に限られる
- お葬式・ペットの世話・遺品整理・延命治療の希望などには法的な強制力がない
- 強制力はなくても、「付言事項」で想いを伝えることには大きな意味がある
- 効力のない希望を実現するには、死後事務委任契約を遺言書とセットで結ぶ必要がある

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